『桜Exhibition2023』作品紹介

本会期は昨日終了しましたが、桜exhibition2023にて展示いただいた作品のご紹介です。
去年に引き続き2作品展示いただいております。

Gallery CORSO(九段下)
2023年3月31日(金) ~4月9日(日)
11:00~20:00 (初日16:00〜、最終日〜18:00)

はじめに

今年で5回目の参加となりますが、ここ一年間でプライベートでかなり大きな出来事を経験し、自分の価値観や心情に衝撃とも言える変化がありました。
まだ変化の途中でそれが良いことか悪いことか白黒はっきりさせることはできませんが、大げさな言葉を使うと生まれ変わってしまったかのような感覚で今はまっさらな気持ちです。

例年桜を描かずに桜を表現することに挑戦していましたが、今年は桜について新たな気持ちで向き合い桜という概念を再構築して作品に落とし込むことに注力しました。

作家プロフィールページのご紹介

桜exhibitionではオーディエンス賞というものが用意されていて、会場のアンケート、ポスター購入、SNS応援シェアで得票が一番多かった作家さんが受賞できるものです。
私の作品がいいなと思ったらぜひ画面右下のSNS応援ボタンからシェアしていただけるとうれしいです。

作家プロフィール - SAKURA Exhibition

使用ツール/ソフトウェア

iPad (第7世代)
Applepencil(第1世代)

・Adobe Express
イメージボード、ラフ
・Procreate
制作メインソフト
・Adobe Photoshop
仕上げ、データ入稿のための処理

毎年言っているような気がしますが、結構前のiPadを使っているのでスペック不足が否めません…
タブレットは絵を描くためだけに使っているのでiPad Proを買うのは勿体ない気がして、あえてsurfaceを購入しようかと目論んでいます。

『昇る華』-「Sublimate」

普段はリアルタッチな厚塗りの作品を描くことが多いですが、写実的であろうと技術にばかり重きを置くのは面白みに欠けるのではと思いました。
そのためこの作品では今までの自分のタッチを活かしつつ抽象的にまとめました。
あえて性別や人種を決めることなく、絵具が混じり合うままに形を取っていった流動的なモチーフになっています。

厚塗りのタッチで透け感を表現するのはとても難しいので、今回はにじみやぼかしを消さないように注意しています。
また本作では感情を捉えたい狙いがあったので、キュビスム(物の形態を二次元の画面に総合的に表現しようとする試み)のようにモチーフを多面的に見て、あえて鑑賞側に感じる余地を与えるように不確定な要素を残した構図にしています。

タイトルの由来について

「昇る華」というタイトルは「昇華」をもじっています。
昇華には主に2つの意味があります。

  • 固体が液体になることなしに、直接気体になること。
  • ある状態から、更に高度な状態へ飛躍すること。

1つ目の意味は科学の実験で習うので記憶にある方もいらっしゃるかもしれません。
気体や固体、液体の状態の変化で使われる言葉の一つです。

2つ目はフロイトの精神分析から生まれた防衛機制の中のひとつに昇華という言葉があります。
防衛機制を簡単に説明すると受け入れらない現実やストレスに直面したときに、その不安を和らげようとする無意識の心理的なメカニズムのことです。

例えば「抑圧」は不快な体験や考えを無意識に押し込み、忘れさせる働きをします。
また「合理化」は満たされない欲求に都合の良い理由を付けることで、自分の失敗や好ましくない体験を正当化しようとする働きのことを指します。

「昇華」は高次な防衛機制で成熟した防御の一つといわれています。
昇華は心理学辞典(1999)で、以下のように定義されています。

社会的に許容されない本能的な欲求を容認可能な行動に変容して充足させること。つまり,昇華は,置き換えを基本とする機制である。他の機制とは異なり,欲求は抑圧されることなく,現実に取り組むエネルギーとなる。

心理学辞典(1999)有斐閣

つまり社会的に好ましくない欲求を、多くの人に認められる欲求に変容して、物事に取り組むエネルギーとすることを意味します。

私は絵を描くことは自己表現の一つだと考えていて、自分の精神状態や自分を取り巻く環境が面白いほど無意識のうちに表れると思っています。
生きていると辛いことや自分の力ではどうしようもないことに直面することがあります。人間はそういったものを何らかの形で処理し受け入れて歩んでいきますが、その中で絵を描くことや何かを生みだす力は心理学上の「昇華」のようにネガティブなものをポジティブなものへと変化させることができると思います。
それも抑圧的でなくセラピーのように静かに自分のペースで向き合うことができるので、私自身も救われたことがあります。

自分にとってつらい経験は記憶から消したい早く忘れたいと思うことは誰しもありますが、闇雲に目を背けて蓋をしてしまうと結果的に足枷になってその後も長年苦しむことがあります。
なかなか難しいことですが時間がかかっても向き合って消化していくことが大切だとこの数年実感しています。
先ほど述べたように絵を描く、物を生みだすということは自己分析に通ずるところがあるので、何年か後に過去の作品を見ると当時の悩みや悲しみを理解し乗り越えた感覚を味わうことができることがあります。

そのような経緯があって以前から感情や心情など抽象的なものを形にして表現したいという思いがあり、作品に取り掛かる前からタイトルを決めていました。

『而今』-「Live for the now」

こちらの作品は感情ではなく心情を描きたいと思って制作しました。
この二つの言葉は似ているようで少しニュアンスが違っています。手元の辞書を引くと以下の通り説明されていました。

【感情】-かんじょう
外界の刺激に応じて絶えず変化する、快・不快、喜び・怒り・悲しみなどの気持。

【心情】-しんじょう
人が何か出来事にあった時に起こる喜怒哀楽の情が、まだ言葉になって表出されていないもの。特に、抑えきれない悲しみや苦しみなど。〔ある人の心中の葛藤に対し、他の人が同情・共感・理解する場面で使われることが多い〕

『新明解国語辞典・第八版』(2020)三省堂

「心情」は”心”いう文字が使われているだけあって、感じる気持ちの「感情」よりさらに内面的で自分でもまだ言語化できない気持ちと捉えることができます。
心情は第一印象ともいえるのではないでしょうか。
例えば怒りという感情の裏には寂しさが隠れていることがあるように、感情に振り回されて本当のことがわからなくなってしまうことはあっても心情に振り回されるという使い方はしません。
ある出来事に対するピュアな反応で本心と考えています。

タイトルの由来について

タイトルは而今(”じこん”または”にこん”と読みます)です。
而今とは禅語で「いま、この瞬間」を指す言葉だそうです。

似たような言葉に刹那というものがありますが、こちらは仏語で時間の最小単位で極めて短い時間また瞬間のことを指すようです。

本作は生涯をテーマにしており、私はこの一年間まさに”いま、この瞬間”を大切に生きてきました。
而今という言葉自体は知らなかったのですが、この感覚を言い表す言葉を見つけることができてとても嬉しく思いました。

生きるということは瞬間の積み重ねであり、命が始まった瞬間から終わりに向かって時を重ねていく自然の摂理を悲しむでも抗うでもなく、ただその事柄をじっと見届ける様子を描きたかったという思いがあります。
そのような様子は静観とも言えるかもしれません。
静観には文字通り行動を起こさず成り行きを見守るという意味もありますが、「事物の奥に隠された本質的なものを見極めること」という意味もあるそうです。

「本質を描くには必ずしも写実的である必要はない」ということが同じテーマの展示に5年参加した私が学んだことです。
よく観察し熟考した結果、しっかりとその本質を捉えることができれば見かけは実物から抽象的になっったとしても実際かそれ以上にリアルにそのものを描くことができるのではないかと考えています。

おわりに

今まではコンセプトをかなり厳密に設定して制作していましたが、今年は童心に帰り素直に感じたままに制作しました。
そのためモチーフひとつひとつを制約するのではなく、多面的な意味を持たせることで鑑賞者が自由に鑑賞できるようにしたいという思いがあります。

2つの作品のタッチは違いますが、通じる点があることをタイトルの由来から感じていただけたら幸いです。

冒頭で述べた通り、今はまっさらな気持ちで岐路に立っているような感覚があります。
これまでは自分のルーツを掘り下げることで、自己への理解を深めていましたがそれが一区切りつきこれからは自分のスタイルを確立する時期に入ったのかもしれません。
表現したいものが定まってきたのでそれをどのように伝えるか今後取り組んでいきたいと思います。

オンラインショップのご紹介

ショップ - 桜Exhibition-online

本会期は終了しましたが、オンラインショップは10/31までオープンしているそうです。
全作品が載っている図録の取り扱いもございます。

私も購入したことがありますが、高級紙を使った高品質な印刷でポスターというより複製原画に近いクオリティなのでお気に入りの作品がございましたらお買い求めください。

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